一般社団法人日本造血細胞移植学会 The Japan Society for Hematopoietic Cell Transplantation

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7-1. 移植前処置治療

最終更新日:2018年5月17日

移植前処置(移植前治療ともいう)とは、抗がん剤や全身放射線照射、ときに免疫抑制剤を組み合わせた移植の前に行う治療のことです。患者さんの体内に残存するがん細胞をできるだけ壊滅させるため、およびドナーの細胞を拒絶せず受け入れられる(“生着する”という)ように患者さん自身の免疫力を低下(リンパ球の働きを抑える)させるために、移植の約1週間前から行います。薬剤の種類や量、放射線照射量などは、病気の種類や造血幹細胞の種類、または患者さんの年齢や体の状態によって異なります。前処置療法では大量の抗がん剤や全身放射線照射により、通常の化学療法よりも強い副作用(口内炎、心筋障害、下痢、膀胱炎、肝機能異常、腎機能異常など)が出ることがあります。また、一時的に白血球が極度に減少することにより、感染が起こりやすい状態となります。よってこの移植前処置が行われる時期より移植専用の病室(移植病室いわゆるクリーンルーム)に入ることが一般的です。また同時に赤血球や血小板も減少するため、貧血に対してあるいは出血を抑えるために、適宜、輸血が実施されます。

移植前処置の種類

移植前処置の目的は、上述のように造血幹細胞移植の前にがん細胞をできるだけ壊滅させることと、移植された造血幹細胞を速やかに患者さんの体内に生着させることです。しかし、移植前処置治療の大量の抗がん剤や全身放射線照射といった治療には強い副作用があり、患者さんが高齢であったり、全身状態が悪かったりする場合には、副作用に体が耐えられない危険性があります。

一方、同種造血幹細胞移植では、造血幹細胞と同時に輸注される免疫担当細胞(主としてリンパ球)あるいは移植した造血幹細胞に由来するリンパ球が、患者さんの体内に残存しているがん細胞に対して免疫反応を起こし、がんを縮小させる効果が認められます。この抗がん剤や放射線に頼らないがんへの効果を、同種造血幹細胞移植における同種免疫による移植片対腫瘍効果といいます。

そこで、移植前処置の強度を従来の治療より弱めることによって移植前処置関連の副作用を軽くし、残存したがん細胞に対しては、同種免疫による抗腫瘍効果を用いて治療を行うという方法が開発されました。これを「強度減弱前処置(RIC)を用いた同種造血幹細胞移植(RIST)」と呼びます。また従来の強力な移植前処置を用いた造血幹細胞移植を、「骨髄破壊的前処置(MAC)を用いた同種造血幹細胞移植」と呼びます。前者をミニ移植、後者をフル移植ということもあります。

RICを用いた移植(ミニ移植)の開発によって、従来は同種造血幹細胞移植の適応とならなかった高齢の患者さん(大体70歳程度まで)や、併存疾患のある患者さんに対しても移植を実施できるようになりましたが、RICを用いた移植を行うのかMACを用いた移植を行うかは、年齢や全身状態、病気の種類や進行度など患者さんの状況によって個々の患者さん毎に検討されます。

強度減弱前処置(RIC)を用いた移植(ミニ移植)について

RICを用いた移植(ミニ移植)は、骨髄を完全に破壊しなくても以下の方法を用いれば、輸注した幹細胞は生着するということが分かったことで開発されてきた治療法です。具体的には、抗腫瘍効果はそれほど強くないが免疫抑制作用が強いフルダラビンというような薬剤を投与して、輸注した造血幹細胞が患者さんの免疫細胞によって拒絶されないよう免疫抑制を十分かけておきます。ミニ移植では移植前処置の強度が弱くなるので、移植前処置による副作用が少なくなり、高齢者や併存疾患のある患者さんにも適応することは可能になります。

また、MACを用いた移植(フル移植)の場合は、移植前処置のあと急速に白血球が減少して血液検査で白血球数がゼロの状態が持続しますが、RICを用いた移植(ミニ移植)では、移植前処置の強度が弱いため比較的ゆっくり白血球が減少します。したがって、感染に対して危険な白血球の少ない期間が短くなります。その結果、一時期患者さんの体内で、患者さんの血球とドナーの血球が共存する“混合キメラ”という状態が発生します。通常はドナーの造血幹細胞由来のリンパ球が、患者さんの残された造血細胞を攻撃することによって徐々に入れ替わり、最終的には100%ドナーの細胞に置き換わります。この状態を“完全キメラ“と呼びます。混合キメラ状態で止まってしまい、完全キメラの方向への進行がなくなってしまう場合には、免疫抑制剤の量を調節することによってドナー細胞に有利な状態を作るなどして、この状態を完全キメラに誘導する処置が取られます。それでもうまくいかない場合には、ドナーからリンパ球を採取して、それを患者さんへ輸注するという方法があります。これをドナーリンパ球輸注(DLI)といいます。

このように、RICを用いた移植(ミニ移植)では大量の抗がん剤投与や放射線照射を用いないので、移植前処置の副作用は少なくなるのですが、抗腫瘍効果も弱くなり再発しやすくなる可能性もあるとされています。したがって、寛解が得られていない、あるいは再発していて腫瘍量が多い場合などには、RICを用いた移植(ミニ移植)を適応するか否かは慎重に検討しなければいけません。

移植前処置の具体的な方法と副作用

移植前処置はいくつの種類があり、患者さん一人一人の状況に応じて選択します。

フル移植(骨髄破壊的前処置)
①全身放射線照射(12グレイ)+エンドキサン大量療法
②ブスルフェックス®+エンドキサン®大量療法
③フルダラ®とブスルフェックス®(4日間)療法
④全身放射線照射+エンドキサン®+キロサイド®大量療法
⑤上記に抗胸腺細胞グロブリン(サイモグロブリン®)を加えたもの
ミニ移植(強度減弱前処置による移植)
①フルダラ®+ブスルフェックス®(2日間)療法
②フルダラ®+アルケラン®療法
③フルダラ®+ブスルフェックス®+アルケラン®療法
④フルダラ®+ブスルフェックス®+全身放射線照射(2-4グレイ)

1) 全身放射線照射(TBI)

a) 目的
がん細胞の撲滅と生着不全の予防です。ミニ移植の場合は主として生着不全の予防のために実施します。

b) 方法
骨髄破壊的前処置で用いられる12グレイの場合、通常は一回2~3グレイを一日1~2回、3-4日間にわたって6-8回に分割して照射を行います。一回の照射の要する時間はおおよそ30~60分です。眼の水晶体、肺にあたる放射線量を減弱する処置をほどこす場合があります。また、計画した場所に計画通り照射するため、照射を行っている間は動けません。

c) 副作用
急性期の合併症として吐き気・嘔吐、頭痛があり、制吐剤などの前投薬を実施します。まただるくなったり、遅れて唾液腺炎による唾液腺周囲の痛みや粘膜障害(口内炎、咽頭炎、下痢、胃腸炎など)が生じることがあります。晩期(長期間経った後)の合併症として皮膚障害、(永久)脱毛、唾液の減少、味覚障害、間質性肺炎、腎障害、発育不全などが発生することがあります。

2) ブスルファン(ブスルフェックス®)大量

a) 目的
がん細胞の壊滅です。

b) 方法
点滴で1回2時間かけて1日4回投与します。1日量を1日1回で投与する方法も研究中です。

c) 副作用
痙攣を起すことがあり、抗痙攣剤の予防内服が必須です。嘔気の副作用もありますので吐き気止めを予防的に点滴投与とします。晩期的な合併症として肝障害、脱毛、不妊症あります。

3) シクロホスファミド(エンドキサン®)大量

a) 目的
がん細胞の壊滅と、患者さんの免疫系を抑制してドナー細胞の生着を担保することが目的です。

b) 方法
4~6時間かけて点滴投与します

c) 副作用
吐き気・嘔吐があり、あらかじめ制吐剤を点滴投与します。出血性膀胱炎が発生することがあり、予防のため大量の点滴を実施して尿量を増やします。他方、急性の心不全を発症する場合があり、尿量の定期的測定あるいは体重測定を行い、体液量を厳重に監視し、適宜利尿剤を投与します。また、点滴終了後1~2日後から下痢になる場合があります。

4) シタラビン(キロサイド®)大量

a) 目的
がん細胞の壊滅です。

b) 方法
2~3時間かけて1日1~2回点滴投与します。

c) 副作用
吐き気・嘔吐、発熱、発疹、角結膜炎、中枢神経障害(小脳失調など)、手足症候群などの副作用発生の可能性があります。角結膜炎予防のため、点滴投与前日から数日後まで1日数回点眼を行います。

5) フルダラビン(フルダラ®

a) 目的
患者さんの免疫系を抑制してドナー細胞の生着を担保することが目的です。

b) 方法
30-60分かけて点滴静注します。

c) 副作用
軽度の吐き気、食欲低下があります。

6) メルファラン(アルケラン®

a) 目的
がん細胞の壊滅です。患者さんの免疫もある程度抑制します。

b) 方法
15分~60分かけて点滴投与します。

c) 副作用
吐き気・嘔吐に対して予防的の制吐剤を投与します。口内炎などの粘膜障害が高い確率で発生しますので、クライオセラピー(薬剤点滴中口腔内に氷を含んでもらい、抗がん剤が口腔粘膜に達しにくくします)がその予防に有効です。

7) ATG(ヒト胸腺細胞グロブリン:サイモグロブリン®)大量

a) 目的
移植片体宿主病(GVHD)予防のため投与します。

b) 方法
通常は9~12時間かけて点滴投与します。

c) 副作用
発熱や悪寒、頭痛、関節痛、筋肉痛などのインフルエンザ様症状、皮疹、じんましん、かゆみなどのアレルギー症状が出現します。このため、あらかじめステロイドの予投与を実施します。また、腎機能障害を発症することがあります。さらに高血圧、高血糖、不眠などが出現することがあります。

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